朝鮮総連本部「売却決定」で拉致問題に暗雲――マルナカ説得に失敗した官邸の失態
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39249

たかだか評価額35億円の不動産物件が、日朝関係を揺るがせている。
東京都千代田区の朝鮮総連中央本部のことで、東京高裁は12日、土地・建物を巡る競売で
マルナカホールディングス(本社・香川県高松市)への売却を許可した東京地裁の決定を支持、総連の執行抗告を棄却した。
これで売却手続きは開始され、マルナカが落札価格の22億1000万円を納付した時点で、
所有権は移転。マルナカは、現時点で継続使用を認めておらず、総連は明け渡しを余儀なくされる。
事実上の「北朝鮮の大使館」を追い出されることに、総連は反発を強めており、今後、様々な対抗策が模索されよう。
その方針が定まるのが、今月24日、25日の両日、都内で開催される総連の最高意思決定機関の全体会議である。
今回は、金正恩第一書記が最高指導者となって初めての大会。ここで、許宗萬議長が再任するのは確実だが、
許議長は中央本部売却阻止に向けた動きを強めると見られる。
競売阻止という法的手続きは阻止できなかったものの、政治的な揺さぶりで日本政府を揺さぶることになる。
当面、考えられるのは、前向きに検討していた「拉致被害者の安否の再調査」の拒否と、日朝協議の延期である。
そうした抵抗を予想して、岸田文雄外相は5月13日の記者会見でこう述べた。
「この(東京高裁が執行抗告を棄却した)問題と日朝協議の開催は関連するとは考えていない」
だが、反発は当然、予想された。それに備えて官邸は手を打っていた。
「菅(義偉)官房長官は、いろんなルートを使って、総連への退去を求める方針のマルナカを翻意させようとしていた。
地元政治家、取引銀行、行政などが個別にマルナカ側と接触していた」
マルナカは、もともと四国や岡山県などでスーパーマーケットを展開する持ち株会社だったが、
2011年、スーパー部門をイオンに売却、その莫大な売却資金を利用して、不動産投資、ゴルフ場、ホテル経営、リゾート開発などを推進している。
資産が豊富なうえに、先代の中山芳彦会長は「瀬戸内の暴れん坊」の愛称を持つ人物で、
後を継いだ中山明憲社長も強気の人。少々の圧力には動じない。
北朝鮮にはまったく関係なく、入札に応じたのは純然たる投資。総連本部の入札は
、過去2回行われ、落札価格は第一回目が約45億円で2回目が約50億円。両者が不調に終わり、
“棚ぼた”で落札に成功、評価額約35億円を約22億円で手にしたのだからビジネスチャンスを逃す気はない。
マルナカは、所有権の取得後、総連に退去を求めて、更地にして売却するか、
新たにマンションやビルを建設したうえで売却する、などの選択肢を示していたが、抗告棄却を受けても、その方針に変わりはないという。
それにしても、政府のチグハグな対応には驚かされる。
総連本部問題は、日本政府が拉致被害者の生存確認と帰国に道を開くことのできるカードである。
それを有効に使えない。それは、今回だけのことではない。


第五の権力
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